公益社団法人日本木材保存協会

平成28年度 地域材利用の木材関係者等への支援対策事業

公益社団法人日本木材保存協会

実施概要

1)(公社)日本木材保存協会の概要

当協会は、大正13年(1924)に発足した「木材保存研究会」を基礎に、昭和53年(1978)に社団法人化され、木材保存技術の調査研究、学術誌「木材保存」の刊行、研究発表の場である「年次大会」の開催、規格・基準の作成、木材保存士・木材劣化診断士の資格認定、木材保存剤の認定、国際木材保存会議との国際交流など、幅広い活動を行なっています。
 

2)事業の目的

地域材を外構的に利用した建築物は公共施設だけでなく一般施設においても増加しています。しかし、使用されている木材は経年的に劣化し、劣化した木材が、再び地域材に置き換えられる事例は多くはないと推察されます。その理由には、木材が腐ること等への不安感、木材保存の必要性の認識不足、木材の「リフォーム・リニューアル」に関する情報不足等が考えられます。
 そのために本事業は,群馬県内の外構材の経年劣化した部材に対して、地域材を活用した「リフォーム・リニューアル」を実施し、各種データを得ることを目的に立ち上げました。得られた成果は、報告会を通じ、全国的に普及することにしました。更に成果を具体的な「報告書」として纏め, 外構材利用施設の実務者である自治体、工務店・設計事務所、当該施設の公園管理者などを対象として配布し、成果を広く普及する事を目的としました。
 

3)事業の内容と結果
3-1)「木製遮音壁」と「トイレ木材外壁」における「リフォーム・リニューアル」の実施

「木製遮音壁」は、鋼製型枠にスギ角材が100本取り付けられた構造であり、取り外しが簡単にできる物件です。そのため、現場施工でなく、工場に搬入してリフォーム・リニューアルを行う方針にしました。事前調査の結果、部材間の劣化度の変動が大きく、部材の選別の結果、比較的健全である角材53本はリフォームして再利用することとし、劣化度が大きくリフォームに適さないと判断された47本は部材交換(リニューアル)を行うことにしました。リフォーム材は、下地処理として①「漂白・高圧水洗浄及びサンダー研磨」或は「プレーナー処理のみ」の2処理を施し、塗装処理として「油性含浸形塗料」と「水性造膜形塗料」の2種類の塗料を組み合わせて、施工することにしました。リニューアル部材は、AZNA加圧注入処理を行い、塗装可能な状態まで乾燥させた後に「漂白・洗浄及びサンダー研磨」を行い、「油性含浸形塗料」或は「水性造膜形塗料」で塗装を行ないました
 

  • 遮音壁のリフォーム前遮音壁のリフォーム前
  • 遮音壁のリフォーム後遮音壁のリフォーム後

群馬県緑化センターの、トイレ正面の「木製外壁」は、スギ丸太がタイコ落としで使われているものでした。事前調査の結果、45本のうち比較的劣化度の高い左右両端の部材各5本を部材交換(リニューアル)することとし、残り35本をリフォームして再利用することとしました。鋼製の枠にスギ丸太が長いボルトで緊結されているため、取り外しは困難であり、現場施工を行う方針としました。下地処理としては、「高圧水洗浄」が一般的ですが、公園施設で利用者の便を考慮して「ザンダー研磨」を選択しました。漂白は、公園施設で利用者の安全に配慮して割愛しました。そのため、「ザンダー研磨」の深さは色味に考慮しながら最大で2mm深さ程度としたため、作業に時間を要しました。その後、サンダー仕上げを行ない、「水性含浸型塗料」を塗装しました。

  • 木製外壁のリフォーム前木製外壁のリフォーム前
  • 木製外壁のリフォーム後木製外壁のリフォーム後
3-2)リフォーム・リニューアル工程・コストの算出

木質外構施設のある公園管理者や公共工事の発注者、一般住宅の施主などに対し、リフォーム・リニューアル施工の工程やコストを分かり易く示すことで、木材利用の不安を払拭し、地域材の需要拡大に繋げる必要があります。木製外壁材の塗装費用の事例の幾つかを調べると、塗装単価は、m2当たり3,500円~6,000円と差があり、平均的には4,000円程度が多いことが解ります。
今回のモデル的リフォーム・リニューアルの結果を考察すると、木材遮音壁のリフォームは、施工した表面の面積は9.4m2で、洗浄・下地処理・再塗装を含めた1m2当たりの経費は14,000円となりました。これには、現場からの部材の取り外しと部材の取り付けの経費は含まれていません。一方、群馬県緑化センターの木製外構壁のリフォームの表面/裏面の合計面積は31.7m2であり、現場における下地処理・再塗装の1m2当たりの経費は8,200円、間接経費を含めると11,000~12,000円/m2となりました。
両者共に、間接経費を含めるとm2当たり1万円以上の値となり、一般に示されている値と比べて高い値となりました。この理由として、施工面積が小さかったことが大きく影響していると考えられました。小規模施工の事例であったことから、実際規模(最低でも塗り替え面積100 m2以上)におけるコストの導出には、残念ながら至りませんでした。この点は、今後の課題です。

3-3)成果報告会の開催

以下の5か所に於いて講演会を開催し、外構木材の経年的な劣化、及び劣化対策としてのリフォーム・リニューアルについて成果の普及・啓発を行ないました。

3-3-1)東京会場(参加人数60名)
日時:平成29年7月11日 13:00~14:15
場所:木材会館 東京都江東区新木場1-18-8
1)外構木材の劣化とその抑制   (国研)森林総合研究所 片岡厚氏
木材を外構材として用いると光・雨・カビなどにより劣化が起こることから、保護塗装により劣化を抑制します。これらについて、最近の研究・技術開発の動向を紹介し、更に、外構材のリフォーム・リニューアルの実例をもとに、技術的課題やコストを解説しました。
2)外構木材の変色シミュレーション 東京医療保健大学 新井崇博氏
木材を「現し」で用いる場合、経年的に大きく変色することが経験的に知られています。経年的な変色を施工前に正確に予測し、予測に基づき維持管理対策を立てることで、外構木材の需要拡大に結び付けることが可能となります。
 
3-3-2)大阪会場(参加人数30名)
日時:7月20日 13:00~14:15
場所:NSEリアルエステート梅田店A 大阪市北区曾根崎2-5-10 (内容は東京会場と同様のため上記参照)
1)外構木材の劣化とその抑制    群馬県林業試験場 木材係長 町田初男氏
2)外構木材の変色シミュレーション 東京電機大学 森谷友昭氏
 
3-3-3)群馬会場(参加人数38名)
地域材の外構的利用の拡大に向けて― 外構木材の耐候性とリフォーム・リニューアル ―
日時:8月4日13:00~15:30
場所:ホテル「ラシーネ」 群馬県前橋市古市町1-35-1
1)外構施設の実例と需要拡大    群馬県森林組合連合会 木材部長 鈴木克志 
                     群馬県林業試験場 木材係長 町田初男
群馬県内での地域材を用いた外構施設の施工事例、需要拡大の方向性を示しました。
2)外構材の劣化とその抑制    (国研)森林総合研究所 チーム長 石川敦子
木材を外構材として用いると光・雨・カビなどにより劣化が起こるため、保護塗装により劣化を抑制します。これらについて、最近の研究・技術開発の動向を紹介しました。
3)外構木材のリフォーム・リニューアルの技術課題
                 (国研)森林総合研究所 九州支所長 木口実
 外構材のリフォーム・リニューアルの実例と技術的課題やコストについて解説しました。
 
3-3-4)福岡会場(参加人数39名)
日時:8月23日 15:00〜17:00
場所:九州大学農学部 福岡市東区箱崎6-10-1
1)外構木材の劣化とその抑制    (国研)森林総合研究所 片岡厚氏
2)外構木材のリフォーム・リニューアルの技術課題
            (国研)森林総合研究所 九州支所長 木口実氏
3)外構木材の変色シミュレーション 東京医療保健大学 新井崇博氏
 
  • 群馬会場の光景群馬会場の光景
  • 福岡会場の光景福岡会場の光景
3-3-5)岩手会場(参加人数45名)
シンポジウム 地域材の外構的利用の拡大に向けて
日時:9月6日 14:30〜17:00
場所:ホテルルイズ 万葉の間
盛岡市盛岡駅前通7-15
(1~3の内容は東京会場・群馬会場と同様のため上記参照)
1)木材の気象劣化   山形県工業技術センター 江部憲一氏 
2)外構木材の変色の予測   東京電機大学 森谷友昭氏 
3)外構木材のリフォーム  (国研)森林総合研究所 片岡厚氏 
4)建築における木使い   岩手県立大学 内田信平氏 
 木材を建築物の外装に使うたの留意点として、雨のかからない設計、水の切れる設計、部分的に更新できる設計、内部結露を発生させない設計などの実例を示しました。また、木材の変色を魅力として捉える観点、燃えない材料との組み合わせについても示しました。
5)地域材の利用拡大         岩手大学農学部 伊藤幸男氏
   東北地域の木材供給量及び山元立木価格の推移や、素材流通と流通主体の現状を示し、人口動態や住宅着工数の予測から地域材利用の今後の予測、更に岩手県森連が地場製材所と連携して進めている、地域材の供給と需要を結ぶ取り組みについて紹介されました。
パネラーによる討論 コーディネータ (国研)森林総合研究所 九州支所長 木口実氏
木材の性能を社会に分かり易く示すこと、地域材を外構材として用いるためになすべきこと、木材供給側と木材利用側の溝を埋めるための方策について、会場を含め討論しました。

3-3)成果報告の公表
「木材工業」72巻12号(2017年12月1日発行)に、『講演会「地域材の外構的利用の拡大に向けて―外構木材の耐候性とリフォーム・リニューアル―」の概要』(著者は石川敦子氏)が掲載されました。更に、「木材保存」44巻1号(2018年1月25日発行)にも同様の記事(著者は町田初男氏)が掲載される予定です。

3-4)成果報告書の作成
地域材利用拡大緊急対策事業のうち「地域材利用の木材関係者等への支援対策事業」「地域材利用拡大のための木質外構部材のリフォーム・リニューアル技術の確立とその普及」成果報告書と題して、平成29年9月に公益社団法人日本木材保存協会から190部を発行し、関係機関に配布しました。
 

事業実施により得られた効果

本事業では、2つの外構施設についてリフォーム・リニューアルを行ない、工程内でのコストの対比(下地処理として乾式・湿式・プレーナー処理)や工程間のコスト比較など貴重なデータを得ることが出来ました。本事業で形成したコンソーシアムにより、今後もリフォーム・リニューアル工程の分析とコストの明確化に関する事業を進める体制が出来ました。
普及のための講演会/シンポジウムでは、具体的な外構施設の価格やメンテナンスのコスト、木質外構材の利用拡大に対する自治体の取組み強化への期待、建築側で木質外構材の利用拡大を図る仕組みのあり方、木質外構材のメンテナンスについて一般市民が知る方法、色調変化は劣化の本質ではなく生物劣化(腐れ)にもっと注目すべき等の意見が得られました。これらの意見は貴重であり、リフォーム・リニューアル工程の改善やコストの縮減に取り入れる必要があります。
盛岡でのシンポジウムでは、森林総合研究所東北支所と共催し、そのネットワークでチラシPDFを発信された効果が認められました。岩手木質バイオマス研究会からもチラシを会員に送付して貰い、岩手県内の企業やNGO等から10名以上の新たな参加者を得ることが出来ました。集客に関しては、地域のネットワークの活用が大切であることが解りました。
 

今後の課題と次年度以降の計画

昨年5月に策定された「森林・林業基本計画」では、新たな木材需要の創出のために、公共建築物・民間非住宅・土木分野等への利用拡大を指摘しており、その中には、高耐久化した木材製品等の活用により、外構や外装、屋外の簡易施設等への木材利用を推進も課題として取り上げられています。
外構的利用に当たっては、外構木材の経年劣化に対するリフォーム・リニューアル技術の未確立,「現し」利用の技術的な難しさ,関連する科学的知識の未普及などが、その利用拡大を阻んでいます。この課題に応えるため、本事業を進めましたが、成果の普及は5か所での講演会と木材保存誌への成果の公表に限定されています。
今後、更に知見を集積し、実際の木材利用を担う地方自治体、建築設計事務所、ゼネコン、工務店、公園管理者に対して、(公社)日本木材保存協会を中心として、その成果を分かり易く普及して行く計画です。