根尾の広葉樹活用プロジェクト連携協定

平成27年度 地域材利用の木材関係者等への支援対策事業

根尾の広葉樹活用プロジェクト連携協定
(事務局:オークビレッジ株式会社)

実施概要

目的と事業内容
 本事業では川上(林業)から川下(加工/普及)までの連携を通してさらには流通・消費者への普及までを繋いだ連携の拡大を模索し、規格外広葉樹を活用した「業界が連携しての6次産業化」の完成を図った。
 また、国内需要に加えて海外需要の拡大も念頭に海外向け製品を企画・試作し、さらに普及活動を海外消費者に拡大して需要拡大を行うことを目的とし事業を行った。
 
A.木材生産:有限会社根尾開発
 岐阜県本巣市根尾地域を中心に3000haを超える社有林を持つ森林財産管理会社で40年間育林、維持管理、木材生産を行うとともに広葉樹林育成にも取組んでいる。昨年度は製材や家具等製品の制作を可能にするための規格外広葉樹の効率的な運搬と選別手法の確立を行いモデルは示された。本取組みでは昨年度課題とされた「規格外広葉樹の複数年の材料化実験を行い、年次変動の有無(特に夏切り材の材料化)や規模、年単位の気象の影響などを把握する」とともに、本取組みを今後産業化するためには規格外広葉樹を含めた出材計画(素材生産量がある程度コントロールできる仕組みづくり)が製品競争力においては必要と考えられたため、その改善を実施して規格外広葉樹の効率的な運搬と選別手法の確実性を高める試みを行った。
 A-1-1規格外広葉樹の抽出・伐採とその精度向上
 A-1-2規格外広葉樹の運送作業
 
 
B.製材・乾燥:株式会社カネモク
 岐阜県高山市にて主に家具材を製材する製材業者である。昨年度、木材の歪で複雑な形状や小径木であったり、夏期に伐採されたりしたことにより規格外とされ本来は家具用材とはならなかった材料を、一定の選別ルールで大きさ・状態により分類された広葉樹を効率的に木製家具やインテリア小物等の用材に製材する手法の確立を試みた。その結果、用材に製材することは確立でき、広葉樹の可能性を高める結果となったが、一方で様々な製品用材にするための手間が発生し、材料価格としては市場単価を超える単価となっていた。そのため本取組みでは、この単価を抑えるために製品加工側でより単純で画一的な寸法の材料で構成され、定期的に製造できる製品の企画を行う(Cで示す)ことで効率化させることを試み、その加工情報と連動した製材手法の確立と製品に応じた効率的な材料選別方法を確立して価格的競争力を増大させる可能性を検証した。
  B-1-1商品企画と連動した規格化の検討作業
  B-1-2効率的な制作用材への製材
  B-1-3効率的な人工乾燥手法の確立
  B-1-4強度・比重測定
 
 
C.加工/普及:オークヴィレッジ株式会社
C-1.加工
 オークヴィレッジでは元来の木工技術や原則を継承して樹種や木材の特性を活かす家具や各種木製小物を制作しているノウハウを活かし、また家具をはじめ文具、玩具、テーブルウエアといった小物まで大小様々な生活全般に関わる製品を一貫生産している。そのため規格外であっても製品の大きさや特性に応じて様々な状態の材を使用できる強みを活かして、昨年度は規格外広葉樹用材を製品の大きさや材質に応じて細かく規格化し、それらを製品に使用する手法の確立を試み、製品試作化まで行うことができた。一方で製品や規格外広葉樹由来の材料が多様化した結果、これらの管理・流通体制の整理の必要性、ならびに製材のタームではより画一化された寸法の材料を定期的に製造することのできる商品企画(以下、広葉樹材画一仕様商品と呼ぶ)を行うことが望まれたため、本取組みではそれらの整備と製品企画を加えた産業化を図る試みを行った。
  C-1-1広葉樹材活用製品の国内外の消費者の市場調査
  C-1-3広葉樹材画一仕様商品の製品化モデル案構築のためのイメージ図作成
  C-1-4広葉樹材画一仕様商品の製品化のための設計・試作
  上記の調査、イメージモデル作成、設計を経て下記のような試作品を作成した。
 

C-2.普及
 オークヴィレッジでは日本国内の小売店やエンドユーザーと直接取引を行う同社のビジネスモデルを活かして、本取組みの普及・啓発と広報を引き続き担う。広報方法としては一般メディアを通じて、規格外広葉樹を活用する意義と期待、当連携協定事業に従事する次世代の林業の担い手の存在を認知させ、本取組みについて論理的に広く理解浸透することを促すために、国内外の消費者を招待した「根尾の森と広葉樹を使った適材適所のモノづくり現場を巡るツアー」を実施し、これらの取組みを消費者目線のドキュメントストーリーを制作、これを配布及びweb公開、企画展を実施することで国内林業の実態と課題、規格外広葉樹をなぜ有効活用すべきか、木材生産者・製材/乾燥業者・加工/普及業者がどのように関わった事業なのかを視覚化、興味喚起と理解促進を行った。
C-2-1. 広葉樹材画一仕様商品の国外向けPR方法の検討とブランディング、パンフレット作成
C-2-2.国内外での事業/製品化発表会実施
<東京おもちゃ美術館での展示/体験イベント>
日時:2016年9月18日(日) 13:30~16:30
会場:東京都新宿区四谷
 
 
C-2-3. 国内外の消費者への普及のためのツアーイベントの実施
 
■目的
 本取組みの普及と国産広葉樹製品の優位性を国外発信し、国内市場の縮小に対応した対策や需要拡大を目指すことを前提に、当連携協定事業に従事する次世代の林業の担い手の存在を認知させ、本取組みについて論理的に広く理解浸透することを促すため。
■実施概要
ツアー名  「根尾の森と広葉樹を使った適材適所のモノづくり現場を巡るバスツアー」
日程       2016/8/5(金) 09:10~18:30
参加者    計30名 (国内外の消費者)
移動手段  中型チャーター観光バス2台に分乗
 
C-2-4.本取組みの国内外への普及のためのドキュメントストーリーの作成
 本取組みで実施した根尾ツアーに密着した映像ドキュメントコンテンツを制作することで、根尾の森ツアーに参加できない多くの一般消費者に本取組みを臨場感をもって普及した。

C-2-5.本取組みの国内外への普及のためのWebサイトの制作/更新管理
 主に一般の20代〜30代の女性、特に子育てをして次世代のための環境問題に関心をもつ方々をターゲットにしたFBサイトを制作更新し、本取組みを広く普及/啓発するためにプロジェクト概要、連携協定詳細、プロジェクトの社会的貢献など取組みについての訴求を行った。また広葉樹材画一仕様商品を通じて主に海外消費者を対象に広葉樹を適材適所に組み合わせて作る日本の技術、本取組みがサスティナブルな製品製造の仕組みであることの普及/啓発を行った。
 
 

事業実施により得られた効果

①広葉樹材の有効範囲の拡大と連携する上で考慮すべき年次変化が把握された。
材料単価が昨年度一般市場より本取り組みで素材化された広葉樹材の方が高い状態であったが、同じ材木量を確保するのに伐採・抽出・運搬の一連の作業を圧縮することに成功し価格的競争力が増した。また、夏切り材に関しては気象条件を考慮した上で、段取りをパターン化しておくことで産業化が可能であることがわかった。さらに厚みのある材についてもテストを行った結果、素材化が可能であることもわかった。
 
②国内外の消費者への本取組みの普及と広葉樹材に従来とは違う新たな価値を創出した。
従来の木材を評価する価値を単なる商品や素材の希少性による価値訴求だけでなく、本取り組みのような環境配慮型のモノづくりが消費者にとっての関心や価値評価のひとつとなっていると推察され、新たな価値基準を追加することができた。
 

今後の課題と次年度以降の計画

①国産広葉樹の「夏切り材」「厚材」の安定的な素材化検討の必要性
 夏切り材や厚材は素材化が可能であったことからこの点も今後の素材生産の計画に加えていくことが必要である。こうしたことを考慮し素材化の精度向上をすれば今後全国の国産広葉樹の効率的な素材化、広葉樹材の価値向上につながる大きな転換点となりうることから本取組みの成果を生かして、今後は他地域の国産広葉樹の素材化実験を進める。
 
②伐採現場〜選材〜製材〜加工の川下企業の連携数拡大の必要性
さらに川下(消費者マーケット)業界の連携の必要性
 根尾での取組みが今後活用され、他地域の国産広葉樹の素材化が促進すれば、材料供給が過多になる可能性がある。素材(ハード)の価値だけでなく環境配慮型モノづくり(ソフト)の価値を創出することにより広葉樹材の価値向上を行える可能性が出てきたことをさらに活かすために、消費者に届く前の段階、つまり製造段階で広葉樹を使い、ハードやソフトの価値に見合った適材適所の加工を行うことのできるメーカー・企業が増えることが望ましい。したがって、加工部門で連携する企業・団体を試験的に複数社に増やし、素材化される国産広葉樹の情報を集積・管理・発信できるプラットフォームを構築することを計画する。
 さらにハードに加えてソフトを利用する消費者マーケットに近い企業の消費者要求情報を、伐採現場〜選材〜製材〜加工の仕方を変えるパラメータにする必要があることが示唆されたことから加工より川下の連携をさらに追加することを目指す。
 
③消費者、特に海外消費者への訴求の継続の必要性
 関心のもった消費者を継続的に情報発信するなどの仕組みづくりが必要であるが連携各社の広報体制に加えて外部の企業とのコラボレーションやプロモーションを専門とする人材の協力を模索し、積極的な情報発信する体制の整備強化が目指す。また、海外消費者の発信についても国内市場が縮小することが予想される状況下では、今年度の試作品で海外消費者に訴求し、国内訴求同様、ソフトの海外消費者普及活動の継続を計画する。