飛騨産業株式会社

平成27年度 地域材利用の木材関係者等への支援対策事業

飛騨産業株式会社

実施概要

・実施団体の説明
家具インテリア用品の製造販売/自然エネルギーによる発電事業/林業/製材業
 
・事業の目的
近年の国産材家具に対するニーズは多様化しており、それらのニーズに応えられるモデルとなる家具及び木製品の開発と、既存の販路以外にもPRできる取組が国産材市場の需要拡大には不可欠である。これまでは、国産材を使用した家具は針葉樹である杉が中心であった。しかし近年では、杉以外の針葉樹でも家具のニーズが高まっている。また針葉樹以外では、小径木の国産広葉樹を家具として使用してほしいというニーズも多い。そこで、大きく以下の2つのニーズに着目した。
1.杉以外の針葉樹材の活用
2.小径木の国産広葉樹材の活用
国産材の需要喚起に繋がることを目指しながら、2つのニーズを満たせるPR効果の高い家具モデルを開発し、新しい切り口からマーケットに訴求していくことを目的とした。
 
・事業内容
1)国産材を用いたモデル的な木製家具の開発
2)1)で開発したモデルの展示会出展
上記2つを軸とした。国産材を用いた取り組みは、建築・家具問わず、現在多くの事例が増えてきている。いずれの事例も、ストーリー性をPRしているが、山林から製品になるまでの過程は、産地が異なるだけで特段差別化が図りにくい。また、公共物件への国産材製品活用は補助対象となることが多いが、ホームユースを中心としたエンドユーザーにも、国産材の魅力を訴求していくことが需要喚起には必要である。そのためには、差別化でき、また万人にとって魅力が分かりやすく感じられるモデル開発に取り組んだ。モデルは、以下の6点を工夫した。

(1)針葉樹の「枝」という未活用資源活用による新規性を高めたデザイン
(2)国産の針葉樹と広葉樹を組み合わせたモデル
(3)国産材に多い小径木でも対応可能な部材形状
(4)単品ではなく、セットで訴求できる家具
(5)PRへの切り口として、IoTと木工の融合への挑戦
(6)展示会・WEBによるPR

(1)の枝は、規格材とは異なる表情に魅力がある分、造形表現にセンスが求められるが、感性豊かな外部プロダクトデザイナーを起用することで、前例のない家具モデルを開発した。課題としては、家具用としての枝の流通経路が無い点、品質管理、材料ごとにばらつきのある形に対する切削や穴あけの加工方法の確立が課題であった。
 
▲枝の集材の課題は、NPO法人活エネルギーアカデミーとの連携により実施した。木材は通常、建材を中心に集材されるが、枝部分は不要なため打ち落とされる。打ち落とした枝の集材を担ってもらうことで、モデル開発用の集材を実現した。
品質の課題は、非常に難航した。従来の木材と異なる点として、①樹皮剥き、②芯持ちである点、③含水率を測れない点の3点である。
 
▲①樹皮は、伐採直後の場合は剥きやすいが、数日~数週間経つと途端に剥きにくくなることが分かった。樹皮の剥き具合、枝表面の磨き具合は、そのまま仕上がりを左右するが、樹皮や薄皮が残っているよりも、取りきった白木の表情の方が良い。しかし、小枝や小節
の部分は、研磨機械が入らず磨きにくいため、手間を要する。枝の皮剥き作業をしなければ、内部の割れ具合が判断できないため、仕入れた枝を全て剥かなければならないが、中には剥いた後に割れがあることもあり、歩留まり向上の課題はまだ残っている。
 
▲②芯持ち材は、家具用材で使われることはない。しかし、枝を用いるためには、この芯持ちへの対策が必要である。芯は割れが起きやすいため、木口や表面に割れが見られた。また、そもそも枝は節も多く含まれるため、節割れも同時に発生する。飛騨産業では、「節の家具」として成功した先行事例があるため、節割れに関してはノウハウを応用できた。木口割れに関しては、環境試験を実施し、割れの進行具合の変化を品質の基準や、割れの悪化防止など、まだまだ課題を多く残している。

 
▲③含水率を測れない点は、曲げ木や品質に影響を与える。曲げ木では、曲げる前後の含水率管理が成功率に関わる。また、曲げた後に、アールが戻ろうと材料が動いてしまうが、これも含水率管理によるコントロールが本来は望ましい。含水率は、端部分をカットした端材で、比重により求めることもできるが、1本1本を測りながらでは量産に適さない。国産材の需要拡大を目指すためには、今後量産体制の確立が課題である。


(2)国産の針葉樹と広葉樹を組み合わせたモデルとして、針葉樹は枝の部分とした。広葉樹は、枝の表情と親和性の高い樹種を選定した。家具の構造体には広葉樹を用いたため、針葉樹の家具にありがちな肉付きのあるデザインではなく、あくまで現代の住宅や建築に馴染みやすいシンプルモダンな印象に仕上げた。
(3)国産材に多い小径木でも対応可能な部材形状では、飛騨産業が得意とするウィンザーチェア構造とすることで実現した。脚や背もたれのスポークをロクロ形状とすることで、細い角材から削り出せる形とした。
(4)単品ではなく、セットで訴求できる家具


(5)PRへの切り口として、IoTと木工の融合への挑戦
 

「株式会社 飛騨の森でクマは踊る」(以下ヒダクマ)と連携し、国産木材とIoT技術の融合に挑戦するPRイベントを実施した。イベントでは、国内外6大学約30名の学生が飛騨に滞在しながら、飛騨の森林資源を活用し、伝統の組木技術と最先端のIoTを生かした試作づくりを行うもの。木材の基礎知識や加工技術などを、参加者に対してPRした。また、取り組みの様子はヒダクマのホームページでもPRされた。


(6)展示会・WEBによるPR
 

展示会は、2016年9月7日~11日まで行われた「飛騨の家具フェスティバル」にて、プロトタイプを展示した。展示会には約2000人の家具業界小売関係者が訪れたため、今後のPRに繋がる展示となった。会場には、よりPR効果を高める為に、デザイナーによる枝のオブジェなどを展示し、世界観、ストーリー性の訴求力を高めた。また、(5)のIoTイベントからの派生として、国産材を用いたデスクのプロトタイプを制作した。
 

事業実施により得られた効果

展示会でのPRの結果、アンケート調査で実に91%の人から「良い」以上の評価を頂いた。(「大変良い」「良い」「普通」「あまり良くない」、有効回答数87)また、モデルを見て、枝材を日本全国の山林と協力してほしいという声もあり、地域材と枝材を組み合わせて使用することで、このモデルならではの付加価値を創出していける可能性を大いに感じることが出来た。
 

今後の課題と次年度以降の計画

国産材の新しい見せ方のPRとしては、展示会などでの評判も非常に高かった。しかし、今後は需要拡大に繋げるため、モデル開発に留まらず、量産仕様にしていく必要がある。次年度以降は、枝の収集の全国展開や、安定した品質管理などを目標にしていく。