上川地域水平連携協議会

令和3年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業

上川地域水平連携協議会

事務局所在:北海道

事業計画

事業計画(pdfで表示されます)
 

実施概要

1 事業の実施体制
 事業実施主体の上川地域水平連携協議会(以下、水平連携協議会)は2010年に設立され、北海道でもっとも蓄積量が多い針葉樹であるトドマツを使った住宅づくりの普及を推進する活動を進めている。今回、次の機関の協力を得て、図1に示す体制で事業を進めた。
  • (地独)北海道立総合研究機構林産試験場(以下、林産試験場)
    林産試験場は、研究職員約60名を擁する木材研究機関で、道産材の高度利用に関する豊富な技術的知見を蓄積している。本事業では、木材を外装材に用いた外壁(以下、防火木外壁)の防火性能についての指導を得た。
  • (地独)北海道立総合研究機構北方建築総合研究所(以下、北方建築総合研究所)
    北方建築総合研究所は、研究職員約30名を要する建築研究機関で、北方型(高断熱や高気密)の建築物に関する豊富な技術的知見を蓄積している。本事業では、防火木外壁の仕様、施工についての指導を得た。
  • (一社)北海道ビルダーズ協会(以下、ビルダーズ協会)
    ビルダーズ協会は、北方型住宅等の建設、省エネルギー化等を促進する活動等を行う団体で、北海道の住宅設計、住宅建設、住宅供給を行う事業者、木材関連事業者並びにその関連事業者約250社で構成される。本事業では、防火木外壁について、設計・施工サイドからの助言および加盟企業に対する普及への支援を得た。
  • (一社)北海道林産技術普及協会(以下、林産技術普及協会)
    林産技術普及協会は木材加工に関する技術向上及び普及を促進する活動等を行う団体で、北海道を中心とする木材関連事業者約150社で構成される。本事業では、道内木材事業者に対する普及への支援を得るとともに、本事業の事務局を兼ねた。
  • (株)ハギヤ(以下、ハギヤ)
    ハギヤは、企画・運営・デザイン企業で、多様な企画・運営事業に経験を有する。本事業では、防火木外壁の展示会出展に際しての企画運営に支援を得た。
 
2 事業の背景と目的

 住宅の外装材に木材を使いたいという要望は多いが、外壁は防火構造として,国土交通大臣が認定した仕様にしなければならない。そのため,外装材に木材を使うためには,たとえば外壁を構成する構造用面材を通常よりも耐火性のある材料に変える等の措置が必要になる。しかし、北海道をはじめとする寒冷積雪地の住宅は,外壁内および外壁屋外側に断熱材が多く用いられており、この遮熱性を活用することにより、外壁の防火性能を向上させることが期待される。
 林産試験場・北方建築総合研究所の技術開発の結果、防火構造の性能を満たす高断熱外壁の仕様が明らかになり、2020年、外装材に木材を用いた防火構造の国土交通大臣の認定が得られた注1)。この認定取得により、①防火木外壁の施工の合理化・費用低減、②火災保険料の低減、③見えるところに木材が使える、等のメリットが得られることになった。
 そこで、本事業において、高断熱建築物を手がける建築事業者および木質建材供給事業者を対象として、木製品の常設展示施設(木と暮らしの情報館)での展示・説明、技術展示会への出展、技術資料の作成・配付を実施し、防火木外壁の周知を図ることによって建築物の外装への木材利用を促進することを目的とした。
注1):認定番号 PC030BE-3846、PC030BE-3884、PC030BE-3890等(認定日 2020年4月~10月)

3 事業内容および実施結果

3.1 木製品常設展示施設での展示・説明
 「木と暮らしの情報館」注2)内に、防火木外壁の実大外壁模型を作成・展示した。模型の概要は表1、写真1、図2のとおりである。また、防火木外壁に関する説明パネルを作成し、実大外壁模型の横に掲示した。
 また、認定を取得している防火木外壁は仕様の種類が多いことから、外張り断熱材の種類、外装材の張り方を違えた小型外壁模型を6種類作製した。6種類の概要を表2に示す。これら小型外壁模型は展示会(ビジネスEXPO)に出展後、林産試験場、水平連携協議会会員企業および木と暮らしの情報館に展示にした。
注2):北海道の企業で製作された木製品とその情報、林産試験場で開発された成果などの展示施設。建物の仕様は次のとおりである。
  構造:木造平屋建(一部2階建)、延べ床面積:545m2(1階:398m2、2階:146m2)
  架構:カラマツ構造用集成材、カラマツ構造用LVL

表1 実大外壁模型の概要

部位 仕様
外装材 トドマツ板材(厚さ15mm)、本実目地、横張、縦張
外張り断熱材 ポリスチレンフォーム(厚さ20mm)
構造用面材 構造用合板(厚さ9mm)
壁内充填断熱材 グラウウール(厚さ100m)
内装下地材 せっこうボード(厚さ12.5mm)
内装材 トドマツ板材(厚さ12mm)、本実目地、横張
 
写真1 実大外壁模型 図2 実大外壁模型の構成・仕様

表2 小型外壁模型の概要
  小型壁Ⅰ 小型壁Ⅱ
大きさ 高さ750mm×幅550mm 高さ750mm×幅550mm
充てん断熱材 グラウウール グラスウール
外張断熱材 フェノールフォーム20mm グラスウール100mm
外装材 トドマツ15mm トドマツ15mm
目地 突付(深さ3mm程度のV溝) 突付(深さ3mm程度のV溝)
  小型壁Ⅲ 小型壁Ⅳ
大きさ 高さ750mm×幅550mm 高さ750mm×幅550mm
充てん断熱材 グラウウール グラスウール
外張断熱材 フェノールフォーム20mm ポリスチレンフォーム20mm
外装材 トドマツ15mm トドマツ15mm
目地 大和張り(重なり幅15mm) よろい張り(重なり幅15mm)
  小型壁Ⅴ 小型壁Ⅵ
大きさ 高さ500mm×幅500mm 高さ500mm×幅500mm
充てん断熱材 グラウウール グラスウール
外張断熱材 ポリスチレンフォーム20mm グラスウール100mm
外装材 トドマツ15mm トドマツ15mm
目地 突付(深さ3mm程度のV溝) 突付(深さ3mm程度のV溝)
内装材 トドマツ12mm トドマツ12mm

3.2 道産材外装材の展示
 国土交通大臣の認定を取得した防火木外壁では、外装材には樹種の制限はなく、水平連携協議会が扱っているトドマツ以外の道産材も使用可能である。そこで、道産材であるカラマツおよびスギ(道産スギ)を含めた道産材外装材の情報提供のため、道産材外装材展示パネルを作成し、木と暮らしの情報館に設置した。展示パネルには北海道内11社の外装材を示した。
 なお、道産材外装材事業者の情報、および展示パネルに用いた外装材サンプルは北海道木材産業協同組合連合会から提供を受けた。

3.3 情報誌等による広報
 木材事業者および建築事業者に対し、防火木外壁に関する情報提供を行った。
  1. 表題:「2021北海道 ビジネスEXPO」に出展します
     ウッディエイジ2021年10月号(発行:林産技術普及協会) 発行部数 160部
  2. 表題:「トドマツ」の外装材・内装材
     2021年9月:日本木材加工技術協会第39回年次大会講演要旨集(発行:(公社)日本木材加工技術協会) 発行部数 150部
3.4 水平連携協議会ホームページでの技術情報提供
 水平連携協議会ホームページに「(New)防火木外壁 技術資料」の頁を設け(図3)、そこに次のPDFファイルを掲載した。公開後の1か月弱の期間に100件弱のアクセスが得られた。また、次のような問い合わせ等があった。
  • 薬剤処理していない木材も使用可能なのか(木材製造者)
  • 外装材が広葉樹でも利用可能か(NPO)
  • 認定構造を使用する際の手続きは(工務店)
  • 自社外装木材にも適用できるなら、自社価格表を配布したい(木材製造者)
図3 水平連携協議会ホームページ 技術資料掲載ページ
(https://rinsan-fukyu.jp/suiheirenkei/mokugaiheki)

3.5 技術資料等の配布
 作成した技術資料等は表3に示すような配布を行った。
表3 技術資料等の配布概要
配布先団体等 地域 配布数 配布物
A (一社)ビルダーズ協会 北海道全域 226 ①防火木外壁技術資料
②道産材を住宅の外装に使いませんか
③トドマツ防耐火外装ハンドブック
B (一社)林産技術普及協会 北海道全域 120 ①防火木外壁技術資料
②道産材を住宅の外装に使いませんか
C (一社)北海道建築士会 北海道全域
(札幌以外)
2,810 ②道産材を住宅の外装に使いませんか
札幌市 936 ①防火木外壁技術資料
②道産材を住宅の外装に使いませんか
D ビジネスEXPO 北海道全域 各約40 ①防火木外壁技術資料
③トドマツ防耐火外装ハンドブック
E 林産試験場
北方建築総合研究所
旭川市 各50 ①防火木外壁技術資料
②道産材を住宅の外装に使いませんか
F 上川地域水平連携協議会 上川地域 各50 ①防火木外壁技術資料
②道産材を住宅の外装に使いませんか
A~C:各会の会員個々への配布、D:展示会での配布、E~F:関係企業、来訪者への配布

2.5 展示会出展
展示会:ビジネスEXPO
 日時:2021年11月11日(10時~17時30分) ~ 12日(9時30分~17時)
 会場:アクセスサッポロ(札幌市白石区流通センター4丁目)
 展示内容:小型壁模型(5体)、説明ポスター(6枚)、資料配布(3種類)
 ブース来場者数:約40名
意見質問等:
 ・大臣認定防火木外壁の適用範囲について ・トドマツ板材の入手先について
 ・外装木に対する塗装について      ・外装木の耐久性について
 ・北海道の森林資源量について      ・トドマツの資源量について、等

2.6 技術資料の作成
 2種類の資料を作成した。資料作成に併せ、木材を外装材として使用した建築物の事例を収集し、技術資料要約版に示した。
①防火木外壁 技術資料
 防火木外壁の認定仕様では、北海道の高断熱住宅を広く網羅し、住宅設計の自由度を担保するため、材料構成が多岐にわたっている。それらを詳細に示し、誤りのない利用を促すために「防火木外壁 技術資料」を作成した。技術資料の趣旨を表4に、構成を表5に、内容の一部を図5に示す。
図4 出展者ページ
写真2 ブースレイアウト

写真3 見学者対応
 
表4 「防火木外壁 技術資料」作成趣旨(抜粋)
 北海道の中央部に位置する上川地域の森林蓄積量は約1億1千万m3。兵庫県や静岡県の蓄積量にほぼ等しく,上川地域を都道府県に見立てると全国の16位くらいに位置しています。針葉樹ではトドマツが蓄積の半分以上を占めています。このような森林資源を背景として,「上川地域水平連携協議会」が設立されました。
 以降,道総研林産試験場の支援を受け,トドマツ無垢構造材やトドマツ無垢フローリングの開発・商品化,トドマツ家具や遊具キットの試作,DIYストアとの連携に取り組んできました。
 今回,道総研が開発した防火構造「防火木外壁」に着目し,その外装材にトドマツを使用した防火構造を提案することとしました。この構造は,住宅外壁の防火性能を高めるとともに,火災保険料が低減するメリットがあります。住宅外装材の選択肢の一つとして,トドマツを加えていただけることを期待しております。
 なお,防火構造「防火木外壁」を活用する際には,部材の種類や寸法等について定められた仕様どおりに施工する必要があります。そこで,誤りのない活用を図るため,本技術資料を作成しました。
上川地域水平連携協議会会長  関口洋平 
表5 「防火木外壁 技術資料」の構成
項目 小項目 著者
1.防火構造外壁について 概要
設計事務所・工務店の皆様へのお願い
防耐火認定書 お問合せリスト
糸毛 治1)
2.防火構造外壁の紹介① フェノールフォーム(PF)・ポリスチレンフォーム(PS)
3.防火構造外壁の紹介② グラスウール(GW)・ロックウール(RW)
4.省令準耐火構造の概要   吉田道秀2)
1):北方建築総合研究所
2):独立行政法人住宅金融支援機構
 

図5 「防火木外壁 技術資料」の内容例

②技術資料要約版
 第1回検討会では、「建築サイドへの効果的な普及のため、仕様、納期、価格等がわかる外装材カタログの作成」という提言があった。また、防火木外壁を広く普及するためには技術のダイジェストを示した資料の必要性があった。そこで、防火木外壁技術資料の要約版として、トドマツ外装材の価格や入手方法も示した「道産材を住宅の外装に使いませんか」(図6)を作成した。なお、技術資料要約版には、「北海道生まれ」の木材製品のブランド名称である 「HOKKAIDO WOOD」のロゴマークを掲載した。
 

事業実施により得られた効果

・詳細な技術資料の発行により、国土交通大臣認定防火構造「防火木外壁」の誤りのない活用策を明示することができた。


図6 防火木外壁技術資料要約版(一部抜粋)

・道産材外装材を用いた実大外壁模型および小型外壁模型を用いることで、「防火木外壁」の具体的な構造仕様を示すことができるようになった。
・木材展示施設等での展示、展示会への出展、北海道内の建築関係者への技術資料配付、ホームページ等での情報発信を行った。また、協議会会員経由による関係企業への普及も同時に進め、技術資料追加の要望等を得た。
・ホームページには公開後の1か月弱の期間に100件弱のアクセスが得られた
 

今後の課題と次年度以降の計画

 本事業で作成した「防火木外壁 技術資料」の中で、防火木外壁のメリットを次のように示した。
① 建築できる範囲の拡大 ② 木質外装材の施工合理化・費用低減
③ 火災保険料の減額・負担軽減 ④ デザイン性に富む木外装
⑤ 道産木材の利用促進 ⑥ 良質な街並みの形成
 ④~⑥の特徴は、「防火木外壁」に用いる外装材は樹種を選ばないこと、および張り方の自由度が高く、多様なデザインに対応可能であることによるものである。本事業ではトドマツを取り上げてきたが、『1.3.2 道産材外装材の展示』で整理したように、北海道内にはカラマツ、スギ(道南スギ)の外装材製品も数多くある。今後は、それの樹種を含めた「道産材外装材」全体を視野に入れた普及を図ることが、建築物のデザインの自由度を高め、道産木材に対する親しみを深めるためには重要と考えられる。以上のような整理に基づき、次年度以降は次のような普及を進める。また、これらの推進に当たっては、当協議会が中心になることはもとより、林産技術普及協会や北海道木材産業協同組合連合会等の協力を得る考えである。
・木製品常設展示施設での、外壁模型および技術資料を活用した普及を継続する。
・北海道建築指導センターをはじめとする建築関連団体への普及を進める。
・防火木外壁建築物の施工事例の収集に努め、技術普及誌やホームページでの情報発信を継続して行う。