レポート

 

はじめに

全国木材組合連合会 常務理事  森田 一行

この1年間、事業の実施について皆様にご尽力いただいたことをこの場をお借りしてお礼を申し上げる。中間報告会の際にも活発な意見交換をしていただき、せっかくの国産材への追い風をつかもうということで、いろいろと工夫をしていただいたことを、今日はそれぞれの団体からご報告をいただく。コロナ禍でオンラインというかたちの開催となり、ご不便をおかけすることもあるかと思うがご容赦いただきたい。委員の方々、日頃からご指導くださっている林野庁の方々、お忙しい中のお出席をありがとうございます。
目次
 

事例報告

南会津産広葉樹による高付加価値な壁面装飾の開発と普及
(NPO法人みなみあいづ森林ネットワーク)

NPO法人みなみあいづ森林ネットワーク  松澤 瞬
 
南会津産の広葉樹を使った高付加価値の壁面装飾の開発と普及をテーマに、本事業を行った。南会津は総面積の92%が森林。そのうち7割以上を占める広葉樹の素材生産量は全国1位。資源は豊富だが消費出口が乏しいので、新たな事業として20cm以上の小径木の流通を見直した。壁面装飾に着目して市場調査を行うと、市場規模は小さく商業施設中心でオーダー品が多いことがわかり、ビジネスチャンスを見出した。「Wood Wall Artプロジェクト」を立ち上げ、地域外からもデザイナーや建築士の参画を求めた。壁面全体の装飾、アート、サインや看板など、小ロットを生かしたデザイン性の高いものを開発。樹種の多様性や木材加工技術を生かし、原料調達から流通までトータルにコーディネートする。今後は樹種選定や生産ラインの見直しなど、安定供給のための環境を整え、製品ラインナップも拡充し計画販売を行う。
 
 
 

西川材を利用した木育空間のデザイン開発とその設計者養成プロジェクト
(NPO法人木づかい子育てネットワーク・株式会社サカモト)

NPO法人木づかい子育てネットワーク  多田 知子
株式会社サカモト  坂本 幸  
木を使った自然保育に対する認知が高まり、木育ツールが国産A材の利用対象として期待される。保育や保育現場を知り、木材の良さを引き出すデザインを提供できる人材育成のため、昨年度木育ツールの設計者・デザイナー養成の研修会を行った。2回目となる今年度は昨年度受講者のアドバンスコースとビギナーコースをわけ、オンラインで開催。内容は、対話と、主体的に課題を解決する活動、優れた事例の視察等の体験的な学びが中心。全国から聴講生合わせて約50名が集まったビギナーコースは全6回で、講義、バーチャルでの保育園視察、ものづくり体験、課題作成など。アドバンスコースの後半は実製作体験で、実際の小規模な保育施設を対象にした木育ツールの開発を、デザインから試作まで行った。成果物から木育・子ども・保育についての理解が感じられ、異業種間のつながりができたことも大きな成果と考えている。
 

 
 

A材を活用した国産JAS製材供給システムの開発
(一般社団法人木と住まいの研究協会)

一般社団法人木と住まいの研究協会  宮代 博幸、岩本 景子
 
当団体は、地域の木造住宅や木材の振興のための業界横断的な組織。今回の事業で行ったことは2つあり、ひとつめは国産JAS製材供給システムの開発で、国産材をボリュームの大きな横架材に使用することが目的。課題は価格、調達のしにくさ、強度不足による材積アップ。それらを克服するシステムを構築して、JAS国産材仕様をユーザーに提案し、実際に建設した現場を収録した。栃木県の製材業者、プレカット工場、工務店と連携した。当該物件では、外材からスギ製材へ代替して梁成チェックをすると、梁成アップは2本だけという結果を得た。2つ目の事業はWeb展示会による普及啓発で、「木フェス」と銘打ち1月中に1週間、JAS製材に関するWebページを公開。内容は解説記事や、導入事例の紹介、構造設計の専門家による講義など。導入事例で、収録した動画を公開、ユーザーの声を伝えることができた。
 

 
 

京都府内産大径材(A材)を活用した新たな幼児用家具・遊具の開発とその普及・啓発
(一般社団法人京都府木材組合連合会)

一般社団法人京都府木材組合連合会  愛甲 政利
 
京都府内の森林も大径木化しているが、A材の需要は減少。幼児用の家具・遊具への問い合わせが多かったが、府内産材での製品ラインナップが少なく対応できなかった。そこで府内の保育園団体と連携し、現場の声を集約した家具・遊具開発した。試作と意見交換会を3回ほど繰り返し、随時ブラッシュアップ。保育者の意見から耳付き材、節材など幅広い利用が可能だとわかり、大径木をとことん使い切る道が開けた。最終的に48点の製品を保育園現場でモニタリング。同時並行で制作したカタログには従来品を含め203点をラインナップし幼保小1500の施設に配布・提案した。木材組合連合会内に幼児用家具・遊具の相談窓口を設置し、相談から見積もり、納品までをワンストップで対応する。事業を通して府内保育園団体と連携できたことは有意義。引き続き5つの園に意見をいただきながら、新たな製品開発で利用促進をはかる。
 

 
 

特A材 吉野林業 による「内装デザイン・家具・雑貨」×ライフスタイルプロデュース
(株式会社古川ちいきの総合研究所)

(株式会社古川ちいきの総合研究所  古川 大輔)
 
当社は、林業木材業の支援、林業を起点とした地域づくり等を主な業務としている。吉野林業の聖地・川上村には木工作家が増えているが、訴求力の弱さが課題であった。そこで村内のメンバー等でチームを結成、空間スタイルを開発し、ライフスタイルとしての訴求を強化。空間スタイルの1つを村内のアーティストレジデンスに試作・展示し、事業期間後にも再度展示、オンライントークショー開催などさらなる展開を生み出している。その他、動画配信、WEBサイト・ブランドブック制作も行い、製品の必要性欲求性訴求とともに「顔が見える」「物語」を重要視した内容構成とした。今後はトレーサビリティ上のメンバーのストーリーを進化/深化させ、木材高付加価値化から、真摯に林業に取り組んできた人々とA材が育つ健全な山と木が報われ、林業自体の価値が復活するような取り組みをしていきたい。
 

 

循環型ビジネスモデルの構築と新しい生活スタイルの提案(協同組合福岡・大川家具工業会)

(協同組合福岡・大川家具工業会  地域材開発部会 田中智範)
 
本事業の内容は、成長の早いセンダンを用いた試作品の開発SOUSEIプロジェクト「SENDAN」と、スギ・ヒノキなどの地域材を用いた試作品の開発「ふるさと家具」プロジェクトの2本。4年目を迎えたSOUSEIプロジェクトでは、地域に自生するセンダンを伐採し家具を制作。原木供給体制の確立を目指し植樹を進めてきた。今回試作品でアイテム数を増やし、魅力を発信するHPを開設、ブランド名、ロゴマークを作成した。実際の納品事例も増え、市場に受け入れられつつある。「ふるさと家具」プロジェクトでは、移動や組み立てができる「ツケタス」シリーズを開発し、福岡県那珂川市産ヒノキを活用する。また、保育現場の要望から、乗って遊べる玩具や打楽器シリーズなどを試作した。素材循環型家具産業の構築を目指すセンダンの植樹活動を通じて知り合えた自治体との、協力関係も広がっている。
 

 
 

五木源住宅の板倉・定額制の仕組み化(合同会社松下生活研究所)

(合同会社松下生活研究所  松下 修)
 
熊本県五木村の「五木源住宅」を普及啓発してきた「木組みの家づくりの会」を活性化させ、A材活用と仕組み化、体制充実のため本事業を行った。木材を大量に使用する板倉の家はA在活用に有効である。規格化を行うため、検討委員会で新生活様式や社会問題も見据え住宅計画を議論。板倉の研究者を講師に迎えた勉強会、現場見学会を行い、規格住宅「土間のある板倉の家」の設計図書やパース作成を進めた。受注体制を事業化するため、人材育成の講座を設け営業の手引書を作成。動画・HP・冊子で普及啓発を行った。事業の中でメンバーが増加し、コープ等の顧客との連携を構築。一般施主向けにはオンライン講座と面談、産地案内を開催。棟上げ見学会には多数参加あり、板倉建築のよさ知らしめることができた。3年後に年間20棟が目標だが、販売技術をもつ人材育成が課題である。
 

 
 

総評

本事業は普及啓発の色の強い事業なので、コロナ禍で皆さん非常に工夫をして取り組まれたことがうかがえた。補助金は終了となるが、今回行った事業をさらに活用し、引き続き大径材や地域材の利用拡大に資するような活動をしていただけることを期待する。このような報告会を開くことは、主体者のネットワーク形成の意味もあるので、皆さんで引き続き情報共有をしていただき、お互いに高めあっていただけるような場としても活用いただきたい。
 
林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室
住宅資材企画係長  塩田 彩