上川地域水平連携協議会

令和5年度 顔の見える木材供給体制構築事業

上川地域水平連携協議会


事業計画

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実施概要

1.1 事業の実施団体
上川地域水平連携協議会は、北海道上川地域で森林管理、製材、プレカット、住宅建設、家具製造を営む8事業体が連携し、北海道でもっとも蓄積量が多い針葉樹であるトドマツを活用した製品開発を進めている。これまでに道総研林産試験場の支援も受け、トドマツ構造材、フローリング、内外装材の開発・商品化、椅子・テーブルや遊具キットの試作、DIYストアとの連携に取り組んできた。近年では、「トドマツ防耐火外装ハンドブック」、「防火木外壁技術資料」などを作成し、防火制限を受ける中大規模建築物でのトドマツ利用に力を入れている。
 
1.2 事業の背景と目的
北海道上川地域では、2003年に下川町の民有林が北海道で初となるFSC-FM・CoC認証を取得した。次いで、2018年には上川地域23市町村の全ての自治体が加わる上川森林認証協議会が設立され、SGEC-FM、SGEC-CoC認証の取得が進められてきた。その結果、上川地域では国有林以外の森林の65%がFM認証林となり、またCoC認証事業者は64社となっている。また、上川地域水平連携協議会会員の4事業体もそれぞれ森林認証を取得している。

このような森林認証の取得が進む中で、森林認証材を用いた多様な木製品が開発・提供されているほか、プロジェクト認証の取得も進んでいる。一方、認証取得に関わっている企業、団体からは次のような感想が聞かれる。
  • 認証材を使いたい、という問合せはほとんどない
  • 森林認証の認知度はまだ低いので、周知に関する工夫が必要
  • 一過性の取り組みで終わらせない、地域の森林の将来を考える組織・体制が必要
認証材の利用については上記のような現状にあるが、持続可能な地域社会の実現に向け、認証材利用を推奨する社会的機運が高まることは必然である。つまり、「認証を取った」で終わらない、認証材活用の持続的な取り組みが求められている。

上川地域の人工林はトドマツの蓄積量が最も多い。このため、上川地域のCoC認証製品やプロジェクト認証施設ではトドマツ認証材が多く用いられている。一方、トドマツ認証林の伐採によって、トドマツ認証材と同時に広葉樹が一定量出材される。広葉樹の中にはイタヤカエデやエゾヤマザクラなど加工用に人気の高い樹種も含まれているが、その多くはチップとされ、一般材としてはあまり活用されていない。また、これまで、認証材は量を意識した建築物の構造材利用を主眼とし、高価格が見込める内装、家具、クラフトなどへの利用例は少ない。今後は、トドマツ認証材とともに認証林に生育している広葉樹を多様な流通チャネルで販売することを通じて山林全体の価値を上げ、それを森林所有者に還元することが求められている。

そこで、今回の事業では上川地域の森林認証林を対象に、トドマツ認証材およびトドマツ認証森林から出材される広葉樹の利用を、流通チャネルの多様化により拡大することを目的とした。
 
1.3 事業内容と実施結果
①事業検討会の実施
第1回事業検討会
日時:2023年9月17日 14~15時
場所:道総研林産試験場 講堂
出席者:11名(上川地域水平連携協議会:5名、外部有識者4名、事務局2名)
内容:事業実施内容・方向性の確認

第2回事業検討会
日時:2014年1月17日 15~16時
場所:道総研林産試験場 講堂
出席者:11名(上川地域水平連携協議会:5名、外部有識者4名、事務局2名)
内容:事業実施結果の点検、次年度以降の展開方策の確認
 
②トドマツ認証森林から出材される広葉樹の利用
下川町有林の69/68年生トドマツ人工林が主伐された際に出材した広葉樹のせり売りに参画し、家具、クラフトへの利用を想定し、下記の物件を落札した。
せり売りの日時:2023年11月1日
場所:下川町原木ストックヤード  
 
樹種 材積(m3) 入札比較価格 (円) 落札金額(税抜) (円)
シラカバ 1.661 11,000 12,000
クルミ 1.065 10,000 18,500
タモ 3.888 33,000 33,000


トドマツ認証林から出材された広葉樹のせり売り

なお、せり売りの対象となった売却物件および落札価格は総計は下表のとおりである。このように、トドマツ人工林に自生する広葉樹を丁寧に選抜し、需要者に供給することで、広葉樹の価値を高め、山側に利益還元できる可能性が示されたものと考えられる。
 
樹種 本数 材積(m3) 入札比較価格 (円) 落札価格(税抜) (円)
広葉樹11種類 196 43.056 341,500 470,000

これらの樹種から、家具会社等に依頼し、スツール、テーブル、カッティングボードを試作した。さらに、製品試作に際しては、樹種の多様性を図ること、および低質広葉樹の流通チャネルを示す観点から、ハンノキ(ケヤマハンノキ)原木を入手し、せり売りで入手した3樹種と同様の加工過程を経て利用した。ハンノキを選択したのは、林道沿い等に多く自生し,早生樹として着目される一方,現状ではほぼパルプ材での利用しかなされていないことから、その造作材としての活用可能性を見ることにあった

なお、スツール等の試作を担った企業はCoC認証を取得していないことから試作品・製品は森林認証製品とはならず、認証森林から出材した広葉樹を利用した試作品、という位置づけて展示した。また、上川地域水平連携協議会では、「北海道生まれ」の木材製品のブランド名称でである「HOKKAIDO WOOD」に登録し、カッティングボードやトドマツ認証材の一部にはロゴマークを付して展示した。
 
スツール・テーブル
カッティングボード
 

③技術資料の作成
1)技術資料1「トドマツ認証材を建物に使いませんか」
主に建築関係者を対象として、トドマツ認証材の建築物での使用事例を示した。
部数:3,000部(A4、4ページ)
2)技術資料2「北海道産広葉樹 流通チャネルの多様化 実践例」
木材利用に関わる事業者等を広く対象として、北海道内で試みられている広葉樹流通の新たな事例を示した。
1.広葉樹利用のひとつのこころみ ~低質広葉樹材のせり売り~
2.広葉樹低質材に新たな販路を ~ひだか南森林組合の取組~
3.広葉樹低質材に新たな販路を ~ひだか南森林組合の取組 その2~
部数:1,000部(A4、18ページ)
 
技術資料1
技術資料2
 

④展示会への出展
下記の展示会に出展した。
1)37th 北海道ビジネスEXPO
 主催:北海道技術・ビジネス交流会実行委員会
 日時:2023年11月9日~10日
 場所:アクセスサッポロ(札幌市)
 対象:カーボンニュートラル等に関する情報に関心を持つ技術者等
 出展内容:技術資料2の配付
 会場総来場者数:22,942名

2)かみかわの未来の森を守る『森林認証』展示会
主催:上川森林認証協議会、北海道上川総合振興局
日時・場所:2023年11月18日~19日(旭川市)
      2023年11月25日~26日(富良野市)
      2023年12月 9日~10日(名寄市)
対象:社会人全般
出展内容:技術資料1・2の配付、トドマツ認証材・広葉樹試作品・パネルの展示
訪問者数:640名(3会場合計)

3)WOODコレクション(モクコレ)2024
 主催:WOODコレクション実行委員会
 日時:2024年1月11日~12日
 場所:東京ビッグサイト 西1・2ホール
 対象:国産木材の需要者・供給者、社会人全般
 出展内容:技術資料1・2の配付・トドマツ認証材・広葉樹試作品・木板張防火構造外壁模型・パネルの展示・スタンプラリー企画への参加
 会場総来場者数:5,293名
 資料等の配布数、約200件
 
モクコレ展示

⑤情報発信
フェイスブック:https://www.facebook.com/suiheirenkei/
インスタグラム:https://www.instagram.com/kamisui2024/
北海道建築士会所属建築士への技術資料1の配布、2,000部
上川水平連携協議会会員3事業体からの関係先への技術資料1の配布、各100部
道総研林産試験場への来場者、会議等での技術資料2の活用、100部
北海道林産技術普及協会会員等への技術資料2の配布、200部

⑥木製品常設展示施設での展示
道総研林産試験場が管理する「木と暮らしの情報館」は、北海道の企業が製作した建材や家具、クラフト等とその情報、林産試験場で開発された成果などの展示施設である。ここで、下記のような展示を行った。
場所:木と暮らしの情報館(旭川市)
対象:社会人全般、木材の需要者・供給者
出展内容:技術資料1・2の配付
トドマツ認証材・広葉樹試作品・木板張防火構造外壁模型・パネルの展示

常設展示施設での森林認証関連展示


事業実施により得られた効果

国産広葉樹を利用する必要性が高まる中で、せり売りによって小規模事業者への広葉樹供給を試みた事例、および原料材として集積された原木から板材の生産を試みた事例を掲載した技術資料2「北海道産広葉樹 流通チャネルの多様化 実践例」は、広葉樹需要者のニーズに応えるひとつの提案となった。

モクコレでの、「ハンノキの生長の良さと質感に興味」、「広葉樹器の作品がすばらしい」、「スツールが可愛い。こども園で使える」、「別の催しでの展示もお願いしたい」といった来場者の感想が示唆するように、認証森林から出材した広葉樹製品・試作品を切り口として、トドマツを含めた森林認証製品・制度に対する関心・理解を得るアプローチの有効性を確認した。
 事業を実施する中で、森林認証に先駆的に取り組み、「SDGs未来都市」を展開している下川町、個人住宅のプロジェクト認証取得に取り組む当麻町、上川地域で森林認証展示会を開催するなど森林認証の普及に取り組んでいる北海道庁の地方組織である上川総合振興局との協力関係を深めた。


今後の課題と次年度以降の計画

3.1 今後の課題
課題として次の3点があげられる。
①森林認証関連の課題
道内展示会およびモクコレを問わず、森林認証制度の内容、認証材を使用する意義などについて、一般市民の方に端的に説明することの難しさを実感することになった。森林認証関連の展示パネルはできるだけ簡略な説明文を心がけたものであったが、さらにかみ砕いた展示パネルが必要である。これについては、説明資料・展示パネルを作成し、木製品常設展示施設に備えたい。
また、木材供給事業者へのヒアリングで、次のような指摘・意見があった。
  • 産地証明は求められているが、認証材についてはない。ただ、「北海道の木は認証材」ということになれば差別化になるし、森林材を周知することは意義がある。
  • 趣旨が類似する認証材、合法木材、クリーンウッド法の関係を整理しておくことが必要。
  • 広葉樹を利用する事業体にとって、供給の安定性が重要である。提供量が限られ、競り売り時期が定まらない小規模な競り売り方式は、安定性に課題がある。
  • 広葉樹の流通チャネルとして「北海道銘木市」が機能している中で、これ以外のルートの必要性がどこにあるか、そこを検証することが必要。
これらの指摘・意見についても適宜対応を進める。
②認証材チェーンの課題
森林経営の持続性を担保する仕組みとして、本事業では森林認証を基本に置いた。それは、FM認証林の割合の高さ、CoC認証事業者数の多さが上川地域の一つの特徴となっているからである。
一方、上川地域は全国有数の家具産地で、旭川家具工業協同組合には40社が加盟しているほか、2022年度においては、家具152億円、建具14.4億円、工芸品6.3億円の売上げがある家具・木工品の一大産地であるが、上川地域のCoC認証取得事業者のうち、家具製造業者は0社、木材加工業者では6社に留まっている。このように認証材の管理チェーンが最終製品までつながっていないため、一般消費者が、家具や工芸品、クラフトなどの身近な木製品で森林認証マークを見る機会に乏しく、そのことが森林認証制度の理解を妨げている要因の一つと考えられた。
モクコレでは、アロマディフューザーを用いてトドマツ樹葉エッセンシャルオイル(森林認証取得製品)の香りをブース内に漂わせ、香りに興味を持った来場者に対し、トドマツの葉から絞ったオイルであることの説明から始め、ラベルの認証マークを見ていただきながら森林認証の説明につなげることができた。身近な製品が森林認証を取得していることが、森林認証への理解を深めるきっかけになることの一例であり、認証製品PRの際の参考とする。
 
3.2 来年度の計画
上記の課題への対応を含め、来年度以降、下記に取り組む考えである。
  • 上川地域水平連携協議会の事務局である北海道林産技術普及協会は、2024年4月、北海道内の広葉樹資源に関する講演会を計画している。その中で、本事業の成果についても周知する。
  • 本事業で作成したパネル、試作品等は引き続き木製品常設展示施設に展示し、来館者への普及を継続する。
  • 「木と暮らしの情報館」には、一般市民、木材関連事業者という木材に対する知見が大きく異なる二層の方が来場されている。今回事業では、一部の展示パネルのほかは、「北海道産広葉樹 流通チャネルの多様化 実践例」、「トドマツ認証材を建物に使いませんか」といった主に木材関連事業者を想定した資料を整備した。次年度以降、上川地域水平連携協議会および北海道林産技術普及協会の独自事業として、今後の課題に記載した森林認証関連を含め、一般市民に向けた資料の充実を図る。
  • 例年7月に実施されている「木のフェスティバル」(道総研林産試験場・北海道林産技術普及協会等の主催)には数百名の一般市民来場者がある。その方々を対象とする木育プログラムの中で、森林認証および道産広葉樹に対する興味を喚起することを計画する。
  • 北海道林産技術普及協会が発行する月刊誌「ウッディエイジ」にて本事業の取り組み内容を紹介するとともに、認証材を用いた建築物、道内で開催されている森林認証展示会、認証森林から伐出した広葉樹の利用、広葉樹の流通などに関する情報発信を今後も継続して行う。