越井木材工業株式会社

令和5年度 顔の見える木材供給体制構築事業

越井木材工業株式会社


事業計画

事業計画(pdfで表示されます)
 


実施概要

実施団体
【越井木材工業株式会社】
明治23年創業の木材を取り扱うメーカーです。電柱木材や鉄道枕木の防腐に始まり、現在では防腐木材、サーモウッドなど木材に付加価値を付けた製品を製造・販売しております。
 
【一般社団法人大阪府木材連合会】
母体は明治6年に遡り、昭和56年に社団法人としてスタートしました。木材の専門集団として健康・環境に優しい自然素材である木材の活用のために活動しております。
 
本事業の目的
2025年万博開催を機に、大阪市内全域に路上喫煙防止措置がなされます。閉鎖型喫煙所に於いては空気浄化、臭気除去、ヤニの定期的除去が必要となります。
スギスリットパネルはこれまでに空気浄化機能が確認されております。閉鎖型喫煙所の諸問題に対して有効性があるか確認を致しました。
 
事業内容・結果
【協議会の開催】
越井木材工業(株)5名、大阪府木材連合会3名に加え、スギスリットパネルの開発者である京都大学名誉教授・同生存圏研究所特任教授の川井秀一先生、大手タバコメーカー社員5名を招き、検証方法について協議致しました。そこで環境への実証実験として臭気物質吸着試験、臭気官能試験を計画。ヤニの付着計測は強制的にヤニを付着させたときの変化を確認し、続けて付着後に洗浄、研磨することでリニューアル効果の検証を行うことと致しました。計測後にその効果を示して喫煙所を管理する機関・企業にアンケート調査協力を仰ぐことと致しました。

【試験内容】
試験実施に当たり【A】臭気官能試験と、【B】リニューアル試験の2つに分けました。リニューアル試験の中に①ヤニの付着計測の確認、②臭気物質吸着試験③リニューアル効果の検証を進めました。

【A】臭気官能試験
日本たばこ産業株式会社横川分煙試験場内にて試験の実施を致しました。パーテーションで同空間体積(48.6m3)になるよう2部屋に区画し、スギスリットパネルの有無に分けました。
室内で同時にタバコを燃焼させて所定のタイミングで空気を採取し、においを嗅いで判定する、臭気官能試験に供しました。既往の研究から(令和2年度事業:コンビニ、コーヒーショップ等店舗への杉木口スリット材導入に関わる実証事業)1m3あたり0.41m2のスギスリットパネル量が望ましく、サンプル試験室のスギスリットパネルは225枚を設置しました。
結果、におい全体の臭気強度の変化は若干でしたが、たばこ臭としての臭気強度は下がる傾向が見られました。例えば換気風量500m3/hにてパネルが設置された場合、パネルがない部屋の空気と比較し、タバコが燃焼中の臭気強度の差は0.6まで下げることが出来ました。
消臭効果は臭気強度を1下げると効果があると言われております。臭気強度1を下げるためのパネル枚数の検討が、今後の課題として挙げられました。

【B】リニューアル試験
①臭気物質吸着試験
これまでにスギスリットパネルには二酸化窒素、オゾン、ホルムアルデヒドを吸着する効果は見られていました。今回、タバコの煙の主たる臭気成分にあるアンモニア、酢酸、アセトアルデヒドに対し、吸着効果があるか(地独)大阪産業技術研究所にて委託、ガス検知管による測定を致しました。
測定はパネルを入れたサンプリングバックに対象ガスを入れて、所定時間静置後にガス検知管を用いてガス濃度の測定致しました。
結果、スギスリットパネルの入ったサンプリングバック内のガス濃度は時間経過とともに減少し、臭気物質吸着効果が見られました。
 
②ヤニの付着計測
リニューアル効果の検証にて、前処理としてタバコ煙劣化処理を行っており、これをヤニの付着計測と致しました。
たばこ1本あたりの粉じん量はおよそ10㎎で、無換気50m3室内にて1.5本を燃焼させると、6か月でヤニ等など汚れが付着するとされています。粉塵濃度0.3㎎×4320時間=1296を定数として試験を実施致しました。
曝露濃度と時間に積算側が成立するものと仮定し、想定曝露期間を6か月、12か月とし、36L容器内でタバコを燃焼させてスギスリットパネルをたばこ煙に曝露しました。結果、想定12か月でも想定した茶色いヤニの変色は見られませんでした。
タバコの臭気は材料より確認されました。目視では判断が出来なかったため、想定12か月の臭気が強く、これが想定6か月より多くヤニが付着したと判断し、リニューアル効果検証に用いました。
 
③リニューアル効果の検証
リフレッシュ処理によるリニューアル効果の検証を実施致しました。リフレッシュ処理の方法は(イ)エアー鉋処理、(ロ)高圧洗浄機による洗浄、(ハ)アルカリ洗浄と致しました。
リフレッシュ処理をすることで、材料からのたばこ臭は軽減していました。試料表面の変色は見られませんでした。24時間後の測定値で比較すると、エアー鉋<高圧洗浄=洗剤洗浄の順でたばこ臭へのリフレッシュ効果が見られました。

たばこ臭が付着したパネルと、(イ)~(ハ)の処理を施したパネルにて臭気物質吸着試験の方法と同様にガス検知管による測定を実施しました。
  • アセトアルデヒドは劣化処理で吸着能力は低下していました。リフレッシュ処理で吸着能力は未使用パネルと同程度まで回復しました。
  • アンモニア、酢酸は12か月相当の劣化処理、リフレッシュ処理の有無にかかわらず、吸着能力の低下が認められませんでした。
アンモニアおよび酢酸においては劣化処理による吸着効果の低下は見られませんでしたが、たばこ臭はしている為に、低減効果を維持するには定期的なリニューアルが必要と考えられます。
また、たばこ臭の低減効果については、コントロールの結果から、スギ材のかおり成分によるマスキング効果の他、たばこ臭成分の物理的吸着、並びにスギ材揮発成分との化学反応の寄与が示唆されました。
 
【アンケート調査】
上記性能を確認し協力を仰ぎましたが、機関・企業内での検討・消防への確認などの期間が目論見以上となり、越井木材工業内の喫煙所でアンケート調査を実施致しました。
1m3あたりスギスリットパネル面積が0.41m2/m3となるよう,スギスリットパネルを98枚設置しました。
スギスリットパネルを取り扱わない、または知らない事業部員を中心にアンケート調査を実施し、30名分のアンケートが得られました。結果としてたばこ臭が感覚的に軽減している傾向がみられ、自由記述でも「においに敏感で、以前の喫煙室は入ると気分が悪くなるので夏も冬も使用できませんでした。パネルのおかげでにおいが気にならないのでありがたいです」「喫煙室は殺風景なイメージがあった。においもとれて、デザインも良いと思うのでよいとおもいます」との意見を頂きました。

【その他作成物】
上記の検証の内、タバコに対するスギスリットパネルの有効性が確認された部分をメインにカタログを50部作成致しました。喫煙所を管理または提携する公官庁、企業に対し配布を検討しております。
これまで国産材、木材の使用が出来なかった新たな領域に、木材利用を紹介できるきっかけになればと考えております。
 

事業実施により得られた効果

今回の事業で、スギスリットパネルのたばこ臭への効果を定量的に評価できました。本結果は喫煙室所有者、喫煙室設計者への説明資料として使用できます。スギスリットパネルが多くの喫煙所に使用され、非住宅分野での木材利用が伸びることで、持続的森林経営に貢献できる効果も期待できます。
 

今後の課題と次年度以降の計画

環境の良い喫煙室にするための手段として、脱炭素社会形成に貢献する森林資源の活用があることを喫煙室所有者、管理者、設計者各位へご理解頂き、広めることが課題となります。
そのために、越井木材工業、大阪府木材連合会HPにて、本事業成果を公表するとともに、本事業を記載したパンフレットを、関係設計事務所に設置してもらう予定です。