社会福祉法人幸仁会/NPO法人木育・木づかいネット

令和5年度 顔の見える木材供給体制構築事業

社会福祉法人幸仁会/NPO法人木育・木づかいネット


事業計画

事業計画(pdfで表示されます)
 


実施概要

林福連携による地域材製品のデザインと福祉事業者間共有に向けた取り組み
 
実施団体の説明
社会福祉法人幸仁会
障害福祉サービス事業所川本園とウッドワーク川本の2施設を運営。就労継続支援B型(40名+30名 合計70名)の施設として、木材の製材・加工を通して障害者が社会的、経済的に自立できるよう支援を行う。グループホーム2か所で共同生活援助を行っている。その他自立生活の支援等を行う。
 
NPO法人木育・木づかいネット
木育、木材利用についての普及啓発、調査研究、製品開発等を進める。東京、埼玉、千葉、神奈川などの事業者、森林組合等の林業事業体と連携した製品開発、販売促進をはじめ、全国の実践者、生産者と多くの連携実績を持つ。
 
 
事業の目的
社会福祉法人幸仁会(以下、幸仁会)では、「森のめぐみ・しごと」をキャッチフレーズに、障害者の方々が力強く働ける環境作りと、自立に向けた支援をめざして、川本園、ウッドワーク川本において木材製品の加工生産を進めてきました。現在、就労継続支援B型事業を手掛ける社会福祉法人として40名の知的障害者に働く場を提供し、置き時計、印鑑ケース、クリップボード等のノベルティ製品や、幼児用テーブル・イスセット、ダイニングテーブル、本棚などの家具を生産し、主として官公庁からの要望に沿った製品の製造を行っています。

私たちのような施設でできる仕事は、いわば企業の下請けとなる場合も多く、働き甲斐のある職場をつくるためには、生産物の安定した販売や、この施設に適した仕事づくりだけでなく、付加価値をつけた独自の製品開発が欠かせません。こうした私たちが抱える種々の課題の解決のために、地域材製品の新たなデザイン創出と障害者がいきいきと働く場の形成に向けて、令和3年度より林福連携による製品開発、デザイン開発の取り組みを進めてきました。
 
 

昨年度までに、地域の森林組合、木材関係者、専門家との連携、協力関係を築き、埼玉県産材を活用した商品の開発、コスト管理、製品のブランディング、障害者が力強く働ける環境づくり等について検討を重ね、ノベルティグッズやDIY製品などの開発を行うとともに、製品の普及に向けた情報発信を行ってきました。またそれらの取り組みは、生産物の安定した販売や、高い付加価値を持つ独自製品の開発という点で非常に大きな意味を持ち、一般消費者にも十分訴求できる魅力的な製品の開発、デザインの創出に繋がりつつあると考えています。
こうした成果は、私どもだけでなく、同様に木工を事業内容とする全国の福祉事業者に波及させていくことが重要と考えています。開発した製品、デザイン、生産のノウハウを共有し、多くの障害者の働く場、環境を形成し、多様な価値を認める社会づくりはより大きな目標として、私たちが常に掲げているものです。本事業に応募させていただいたのは、そうした私たちの思い、目標を実現したいと考えたからです。なお、本事業の目的達成、円滑な運営のために、NPO法人木育・木づかいネットと連携、共同事務局を設置し、この取り組みを効果的に進めました。
 
事業内容・結果
本事業の効率的な遂行のために、社会福祉法人幸仁会とNPO法人木育・木づかいネットが共同事務局を設置するとともに、事業の監督、助言のために、事業検討委員会を設け、林業関係者、社会福祉関係者の参加によって、①から⑥に示す各種事業を進めました。

 

なお、事業検討委員会の委員等は次の通りです。
 
○ 事務局
野辺香織 社会福祉法人幸仁会
神塚清 社会福祉法人幸仁会
多田 知子 NPO法人木育・木づかいネット
 
○事業検討委員
浅田 茂裕 埼玉大学教授/NPO法人木育・木づかいネット理事長
赤池 円 有限会社 グラム・デザイン 代表
新井 朋子 寄居町社会福祉協議会
小野寺 仁志 寄居町社会福祉協議会
畑 俊充 埼玉県中央部森林組合
田中 初男 社会福祉法人幸仁会 理事長
安井 敏晃 安井技術士事務所
 
○アドバイザー
佐藤 岳利 佐藤岳利事務所
 
〇デザイナー
奥 ひろ子 株式会社パワープレイス
山田 聖士 株式会社内田洋行
 
○連携する社会福祉法人(欠席)
社会福祉法人 旭川春光会 セルプノイエ
一般社団法人 kitokito/障害福祉サービス事業所 Wood Factory
 
①普及イベント、ツアーなど
・森tebacoシリーズの展開に向けたワークショップ
日時:2024年1月23日(火)9:30-12:00
会場:グラムデザイン イベントスペース
対象:デザイナー、WEBデザインクリエイターなど
参加人数:5人
目的:デザイナーを中心に、シリーズ製品を使った転用、新たなアイデアの創出に向けたワークショップを実施した。
 
 
・シードリングボックスの改善、普及のためのワークショップ
日時:2024年1月20日(土)10:00-12:00
会場:農林公園 木材文化館 木工室
対象:一般消費者、木育サポートスタッフ等
講師:井上淳治氏(きまま工房 木楽里 オーナー)
参加人数:9人
目的:一般消費者を対象として、DIY製品としての課題や製品の普及のためのワークショップを実施した。
 


・地域材を活用した学校用ゴミ箱の普及に向けた製作ワークショップ
日時:2023年12月23日 10:00〜15:00
会場:埼玉大学教育学部
対象:流山市立N小学校教員
参加人数:4名
目的:学校用ゴミ箱の試作、教材としての活用体験、製品の普及に向けた問題点等の抽出
 
②セミナー、研修会、モデル展示等
・全国の福祉作業所に向けた地域材活用による製品開発セミナーの開催
木工作業を中心として事業を進める全国の福祉作業所を対象としたセミナーを開催した。参加したのは日本セルプセンター木工、陶芸部会に所属する全国の社会福祉法人並びに木工を中心に事業を進める福祉作業所に所属する職員23名であった。

「令和5年度 日本セルプセンター 木工・陶芸部会研修会 埼玉大会」
日時:2023年10月26日(木)~27日(金)
会場:幸仁会川本園、農林公園 木育ひろば、KUMAGAYA BASE
対象:福祉作業所に所属する職員
参加人数:23名
目的:福祉作業所における地域材、合法木材の活用とデザイン、技術移転の
ために、川本園等の視察やセミナーを開催する。
 
 
③宣伝広報(新聞・テレビ・ラジオ広告、インターネットでの広告など)
・今年度の成果について、木育・木づかいネットが運営する「森を育む暮らし百貨」において、製品およびワークショップによる製品の改良について掲載した他、2023年度ウッドデザイン賞最優秀賞を受賞した「森tebaco」について、SNS等を活用して製品の積極的な訴求に努めた。

https://kitomori100.net/reportage/
「木と森を育む暮らし百貨」サイトの「作るルポ」にページを作成
 
④家具などの試作品
1)学校向けゴミ箱の開発
今年度事業においては、新たな製品として、学校で活用する地域材製品と してゴミ箱のDIYキット開発をおこなった。児童が制作に参加し、地域材利用に関心を持つとともに、学校というマーケットをターゲットとした製品で、ヒノキ修正材によって開発を進めた。試作品については、千葉県流山市の小学校で、児童による製作活動を進め、現在検証を進めている。指導する教員からは、材料、デザインの良さについて評価いただくとともに、今後も活用したい旨報告があった。
 


2)地域材を使ったガチャガチャ製品の開発
小規模な施設、設備であっても生産が可能な製品として、子供などに人気のある「ガチャガチャ」に入れる製品の開発を進めた。廃材等でも加工が可能であり、デザインの他作業所への移転が容易であり、全国様々な地域の材料が活用可能なことや、簡素な作りであることなどから、普及が期待できる。
 
 
⑤アンケート調査、外部識者からのヒアリング
・福祉作業所に対するwebアンケート調査(2023年10月実施)
幸仁会を含む福祉作業所の生産能力、主要な生産品、生産体制や地域材、合法木材利用に対する意識等を把握し、新たな製品開発について検討するために、webアンケートを実施した。調査対象は日本セルプセンター木工・陶芸部会に属する全国の作業所40団体であり、そのうち16団体より回答を得た。
結果は、施設設備として、NC,CNC等の加工機械、レーザー加工器、高機能プリンターなど、高度な加工が可能な設備を有する施設は少なく、木材使用量も年間20立米未満が約70%と、小規模事業体が多いことが明らかとなった。木材調達については、概ね製材品を購入して2次加工しており、提携企業から材料を支給されている例も多い。また、合法木材の利用に対しては消極的な姿勢を示す場合が多く、むしろ認証材の活用を負担に感じるという意見も見られた。

こうしたことから、現状、多くの福祉作業所は独自製品の開発、生産を積極的に進められる状況になく、合法木材の利用も進んでいないことが明らかとなった。



・製品ブランディングに向けた外部識者の活用

・アドバイザー 佐藤岳利氏に対するヒアリング
2023年11月14日(火)10:00~12:00
ヒアリング結果の概要
製品、ブランドの充実に向けた取り組みを進める一方で、これまでとは異なる新たなマーケット(ターゲット)に向けた製品の普及、広報活動を進めるために、ストーリー性を持った地域材製品作り、販売を手掛けてきたワイス・ワイス創業者、佐藤岳利氏をアドバイザーとして招聘し、今後の方針や具体的な提携先の候補等を示していただいた。福祉作業所が不得手とする新たな販売手法について多くの学びを得た。今後具体的に企業との連携を図り、ニーズに応じた製品の開発を進める。
 

事業実施により得られた効果

本事業においては、福祉作業所における新しい木材製品のデザインとその試作(地域材(埼玉県産材)の積極的利用)と、これまでの取り組み、経験をもとにした他の福祉事業者向けの研修会、そして新たな消費者獲得に向けた製品の広報活動を実施した。

今回の取り組みによって、新たな製品デザインの獲得と生産体制、木材供給体制の見直しなど、生産基盤の強化、新たなデザインに対応する柔軟な技術力、そして職員の意欲向上などの効果が得られ、幸仁会の中長期的な成長に欠かせない多くの効果を得ることができたと考えられる。またウッドデザイン賞を受賞した「森tebaco」のように、独自の製品デザインを持つことにより、主体性を持った事業経営に繋がることが期待できるとして、事業所内では非常に高い意欲を持つ職員が増えるなど、多くの成果が得られた。

 
また、アドバイザーからの助言から、埼玉県産材であること、そして合法性の高い木材を利用することの意義やメリットを感じることができ、地域の森林、林業に対しても、小さいながらも、よい影響を与えることができると感じている。

一方で、幸仁会の作業所だけでなく、同様の取り組みを進める他の福祉施設にとってのビジネスモデル、施設の経営モデルとしても、プラスの影響をもたらすことを目指し、本事業を進めてきたが、他の事業所の規模、木材利用にたいする姿勢など、今後様々に改善が必要な状況を明らかにした。ただし、ヒアリングや意見交換を通じて、より良い独自製品を持ちたいという意欲、願望は強く、今後、小規模作業でも生産が新しい製品デザイン、そして生産体制の整備という課題に積極的にチャレンジしたいと考える。

また、具体的に一般消費者向けの付加価値の高い製品の開発を進め、企業との連携を強化することにより、経営基盤を強化し、障害者が誇りを持って働く環境へと改善を進めていきたいと考える。

 

今後の課題と次年度以降の計画

今後も他の事業所と情報共有することで、さまざまな波及効果が得られるよう、この取り組みを続けていきたい。また、そのことが全国の木材、地域材の利用拡大に繋がっていき、持続可能な森林、林業の実現に貢献することを期待する次第である。

本事業を契機として、私たちはより一層、地域材を活用した製品開発、販売に取り組む決意を固めた。地域の森林組合をはじめとする各団体との連携を強化するとともに、全国の福祉事業者との木材を通じたネットワークを強化し、地域材製品の開発を進めて行く。そして、消費者のニーズに合った独自製品デザインを増やすことで、障害者の安定的な雇用とより良い労働環境づくりに取り組んでいきたい。
今後も今回のような事業の機会があれば、支援を希望する所存である。