レポート

昔ながらの伐採体験で人々の共感を得る
「加太の森で伐採体験ツアー」


化石燃料を使用しない昔ながらのノコギリと斧で伐採する「エコ伐採」体験などができる「加太(かぶと)の森で伐採体験ツアー」が令和4年12月4日に三重県亀山市で開催されました。三栄林産(株)(三重県亀山市)が主催し、(株)古川ちいきの総合研究所(大阪府大阪市)と鈴鹿森林組合(亀山市)が協力しました。消費者に伐採体験をしてもらい、本物でつくる木の家具や家づくりの魅力を伝えます。
 


 

両挽きノコギリと斧を使い「エコ伐採」を体験


三栄林産顧問の坂義明さん

 

御神酒をかける坂顧問


この日、寒空の下に集まったのは8組のグループ。集合場所となった三栄林産が運営するショールーム「ノッティーハウスリビング」と製材所に10時半までに集まりました。受付でヘルメットを借り、事前レクチャーを受けたら車で2分ほど移動して、本日の会場となる山林に向かいます。

会場は三栄林産顧問の坂義明さんの所有山林です。約70年生のスギ・ヒノキが植わっています。坂顧問は「この山林を植えた当時は植林ブームの真っ只中でした。植林して、下刈り、枝打ちをかなり熱心に行いました。そこの丸太を見てください。赤身で丸太の年輪の幅が細かい。これが『加太材』の特長になります。今日は伐倒作業を行います。山林の作業の中で1番危ない作業です。森林組合の職員さんのお話をしっかり聞いて、安全に体験してください」と話しました。
 

斧で受け口をつくる森林組合職員たち

玉切りの様子

両挽きノコギリ


 

「エコ伐採」を体験する参加者
皆さんでスギを1本伐っていただきます。使う道具は斧と刃渡り190cmの両挽きノコギリです。まず森林組合の職員2人がノコギリの刃を入れていき、それから参加者の方々が「イチ、ニッ」と掛け声を出しながらノコギリを動かしていきます。参加者からは「意外と刃が進まない」、「もっとやりたかった」などの声が上がりました。ノコギリで受け口ラインを入れたら、斧で受け口をつくり、追い口に楔を打ち込んで、合計約20分間かけて伐倒しました。

鈴鹿森林組合の職員さんは、「木が倒れ出してから切り込みが足らないなと思うと、チェーンソーであればハンドルを押せばすぐ伐れますけど、ノコギリだと難しいです。また、2人でやるからこそ2人の呼吸がずれるだけで受け口、追い口の角度が曲がってしまい伐倒方向に誤りが出てしまいます。チェーンソー以上に慎重に伐採しました」と説明します。
それからヒノキはチェーンソーで伐倒して、それぞれ3mずつに玉切りをしました。伐倒シーンでは「木が倒れる音が腹にずっしりくるようで、すごかった」などの声が上がり、スマートフォンで動画撮影している人の姿が多く見られました。
 


製材所で伐りたての丸太を加工。スギ、ヒノキの匂いが強く香る


帯鋸製材の様子

皮むきの様子
三栄林産会長の坂英哉さん(左)


 

挽きたての材を触る参加者
お昼を食べて午後からは製材工場などの見学です。
午前中に伐採した丸太6本を製材加工します。自分たちで伐採した丸太ということもあり、興味津々です。丸太は皮むきをした後、スギは帯鋸で板材に、ヒノキはツーバインドソーで柱に加工しました。伐りたての丸太を加工したため、スギとヒノキの匂いが強く香り、材を触るとしっとりしています。「こんなに良い香りがするんだ」という声も聞こえました。

三栄林産では年間10回程度製材工場の見学などを行っており、今回もフリップを用意して、皮むきや機械、製材などについて製材工場を仕切る三栄林産会長の坂英哉さんが説明しました。
それから家具加工工場では事前に用意されていた板を使い、幅はぎの工程を見学し、最後に木のショールーム「ノッティーハウスリビング」を見ました。
 


 

幅はぎをする職人さん

木のショールーム「ノッティーハウスリビング」

「ノッティーハウスリビング」で遊ぶ子供たち
 


森の中での伐採体験から、暮らしに活きる木へのストーリーで共感を得て、
加太材の再ブランド化に取り組む

「加太の森で伐採体験ツアー」は林野庁助成事業「令和4年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業」の採択を受けた「物語性&体験付加製品開発からの鈴鹿川流域加太材の再興」の一環で実施されました。同事業では付加価値の高い製品を試作したり、ツアーや展示、パンフレットの制作を通じて、「加太材」ブランドの再興と地域活性化を目指します。

同事業の中核となる同ツアーの手応えについて三栄林産社長の坂成哉さんは、「無料イベントはドタキャンが多いのですが、今回はほとんどなかったです。それだけ皆さんの関心の高さを感じます。参加者の皆さんの反応を見てみると、やはり伐採が1番良かったですね。70年生の木が倒れるところを見ながら、本当に1つの命を絶つということを感じてもらえたのではないかと思います」と振り返ります。
三栄林産は新築やリフォームなどが主軸の工務店で、年間6棟程度手掛けています。主に、木のある暮らしを実現したい方が訪れます。同社は2020年に創業50年を迎え、(株)古川ちいきの総合研究所に協力を仰ぎブランディングを実施し、「百年かぶとの森構想」を打ち立てました。坂社長は「ブランディングの過程で製材所がある強みを再認識できた」といいます。

今回のツアーを踏まえて、坂社長は、「次のステップでは『木の家をつくりたい』ではなく、『この木でこんな家をつくりたい』と言ってもらえるようにしたいです。そのためには今回試したようなライブ感が強い体験であったり、化石燃料を一切使わない『エコ伐採』や、製材や乾燥にも化石燃料を使わない『SDGs材』みたいなのが価値にならないかと考えています。これからも関係者の皆さんと協力しながら『加太材』の再ブランド化に取り組んでいきます」と展望を語りました。
 

令和4年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業 一覧